日記とプロファイル
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Short Story

Cute Hot Situation

それは、とある冬の日、ぼんやりながめていたテレビCMだった。
デフォルメされた線画の人物が、ボウルを持ってあらわれる。
湯気の立つそのなかみは、たぶんできたてのスープかなにかだとおもう。
棒線いっぽんの手がボウルをテーブルに置くと、テーブルについていたもうひとりに、なにげなくキスをするのだ。
なんてことはない。
そう思ったのに、どうしてか、残像はなかなか消えなかった。
 
それはほんの、3秒くらいの時間。
ボウルを置く。キスをする。イスにすわる。いただきます。
で、ぜんぶがひとつながりの動作。
洗い終えたグラスを食器乾燥機に入れるくらいの、なめらかな無頓着さで。
それはとっても。

あったかくて、家族っぽいかんじがしたのだ。

しかしもちろん、元・ひとり暮らしのワンルームマンションに食事をするためだけのテーブルセットなんぞあるわけもなく、ちんまりとしたこたつに、バイトから帰ってきたばかりでほぼ半死の同居人がふたつ折りになっているだけである。
なんだか致命的なくらい、雰囲気がちがう。
それでも、バルトの手がしっかりかかえているものは、みそ汁用のお椀に入れられた、レトルトのホワイトシチュウ。
うっとうしい髪はうしろでたばねて、さいごに使ったのはいつだかわからないすすけたエプロンをひっかけ、いやがおうにもアット・ホームなかんじをかもしだしているつもりである。
なんとなくあったかい、あのかんじ、のどからおなかにお湯がひろがってくかんじを、ぜひともこのふたりの部屋で、再現したいとおもうのに。
肝心のフェイは、こたつにつっぷしたまま、バルトには目もくれない。
ほとんど頭からかぶさっている青いどてらが、妙に侘びしい。
それじゃあ駄目なんだ。
お椀を持つ手にぐっと力が入る。
気づけ!俺の熱い視線に!! 
こころなしか、赤いお椀から立ちのぼる湯気が、その量を増した気がした。

一方。
連日のテスト攻勢とバイトで、産卵後の亀のようにすり減ったフェイは、こたつに頬をおしつけつつ、かすんだ目でテレビを見ていた。むろん、かわいらしくも鬼気迫る、相方の思惑にはみじんも気づいていない。
寝不足でザラつく肌に、こたつ台がぼんやりあたたかい。(あまりよく拭かれていないので少々ベタつくが。)
今にも寝そうになりながら、それでも本能がかろうじて警鐘を鳴らしたのか、不穏な気配を感じてとっさに顔を上げると。
赤いお椀を両手に、なにやら口をとがらせて、しかし目はマジな相方の顔が目前に迫っていた。
「うわ!な、なに?なんなんだ!?」
バッタのようにはね起きたが、立ちくらみでまたどてらの下にもぐってしまう。
思わずうなりながら、チッという舌打ちの音を聞いた気がした。
「なに?晩メシ……?」
なんとなくおそろしいので、どてらの下からこわごわのぞき見る。
オレンジ色のエプロンをつけた同居人は、なぜか手に持ったお椀を下ろそうともせず、なんとかフェイの目をとらえようとしているらしい。

目を合わせたらやられる。

とっさにこたつにもぐりこんだフェイを、バルトは膝をついて追いかける。
「おとなしく俺の夢に協力しろ!!」 
こんどはなんなんだ。
この同居人はおおむねすこしズレているが、今日のはかなり、キマっているかんじである。
星飛雄馬のように燃える瞳でお碗をふりかざすバルトに、フェイは起動しない脳みそを叱咤して、ようようひとつの解を導き出した。
「もしかして……」
こたつぶとんから顔だけ出してうかがうと、神妙な顔の同居人が、なにを察したものかうなずいている。
それに確信を得たフェイは、ずるずるとこたつから這い出ながら破顔した。
「なんだ、エイリアンごっこか」

こたつ台にお椀を置く音が、妙に静かにひびいた。

晩メシは?
またわけのわからないことをわめいている同居人に頬の皮を思うさまひっぱられながら、フェイはぼんやり考える。
相方の気が済むころには、お椀のなかみはすっかり冷えてしまっているだろう。
まあでも。

エアコンのない部屋は、こたつの中しかあったかいばしょはないけれど。
今日はそんなに寒くない。

** end **