日記とプロファイル
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Short Story

weekend*love*method

週末の夜は短い。

ウィークデイにはなかなかゆっくり顔を合わせることができない人に、やっと会える週末の夜は、ほんとうに短い。
それは、同じ部屋に住んでいたっておなじである。
だから、1分でも惜しくて、1週間の疲れもわすれて走っていくのだ。
走っていくのだけれど。
「たまには素直に人のいうこと聞いたらどうなんだよ!」
「なんで俺がおまえのゆうこと聞かなきゃなンねぇんだよ!」
「あのな!おまえが見たがってたからわざわざ借りてきてやったんだろうが!」
「だって今はゲームやりてぇんだもん!」
待っているのは、こんなこどもじみた言い争いなのだ、いつも。
男ふたりで6畳ひとまのワンルームに寝起きするようになってずいぶんたつけれど、いまだに平穏無事ということばはほど遠い。
けっして相性がわるいわけではないし、そもそもおたがい嫌いどうしならいっしょに住むはずなどないのだけれど、良いとき、と悪いときのムラがありすぎるのだ。
どうしてこうなるかな、とフェイはいつも思っているのだけれど。
「じゃあバルトひとりでやればいいだろ!俺はもう寝る!」
がたりと立ちあがるフェイを、待ていとバルトがTシャツのすそをつかんでひきとめる。
「なんだよその言いかたー!ひとりでやったってつまんねえじゃん!せッかくこの俺様がいっしょに遊んでやろうというのに!」
「結構ですー(上がり調子)!」
「あー可愛くねぇー!!」
「可愛くないのはどっちだよ!」
がる、とおたがい牙を剥きそうににらみあう。

ほんとうは、ただいっしょにたのしくしたいだけなのだ、ふたりとも。

バルトはゼミ仲間からその新作ゲームを借りたときから、フェイと遊ぶことであたまがいっぱいで5限の授業は代返を頼んでとびだしてきたし、フェイはフェイで、一週間も前にいちどだけ聞いた映画のタイトルをずっとおぼえていて、バイトでへとへとのところをわざわざ遠まわりしてレンタルショップに向かい、律儀にバルトの好きなスナック菓子まで買いこんで、つまりはそれぞれの楽しい週末ビジョンを描きつつ帰ってきたのだ。
「あーもー、今日とゆー今日は愛想が尽きたぜ!なにが悲しくておまえみてぇな辛気くさくてムラッ気で仕送り少ねービンボー学生とせっまい部屋でくすぶってなきゃなんねーんだ!出てけ今すぐ出てけ!」
そう吠えたてているバルトはさほどつかんだフェイのTシャツをしっかりにぎりしめているのだが、
「ちょっと待て、ここ俺の部屋じゃないか!無理矢理押しかけてきたのおまえだろ、しかも!」
にぎりしめられているほうもまったく気づかず吠えかえしている。
「あーそんなことゆうか!?可愛い俺様が添い寝しないと夜も眠れないほどぞっこんラブなクセに!」
「なにがぞっこんラブなんだーー!!おまえめちゃくちゃ寝相悪くて俺は毎日寝不足なんだよ!どんな夢見たらあんな激しいアクション寝相になるんだ!」
「おまえだってわけわかんねぇ寝言いいながらうなされンのやめろよ!こないだの『……もずく……』ってなんだよ!?どうしたら海藻であんな深刻にうなされンだ!」
盛大に話がそれたところで、ダン!と壁が鳴った。隣室の住人が、さかりのついた犬猫のようなさわぎっぷりに堪忍袋の緒を切らしたらしい。
「……おまえがぎゃんぎゃん喚くからだぞ」
「……フェイのバカ声が大きいからだロ」
実は小心者なふたりは、そろって声をひそめる。気勢はそがれても責任をなすりつけあうことだけは忘れない。いやそりゃおまえが、なんだと第一おまえがと、言い合っているうちにフェイはなんだかかなしくなってきて、思わずこう吐き捨てていた。
「さいしょっから、おまえがすなおに人の言うこと聞いてりゃよかったんだよ」
言ってしまって、あ、とフェイはバルトの顔色をうかがった。
常日頃は天真爛漫で、細かいことは気にしないこの同居人だが、いったん意固地になると誰よりあつかいづらくなる。なにより、こういう高圧的な物言いをされるのが大きらいなのだ。
そして、それがわかっていながらも、やっぱりおなじくらい意固地なフェイは、いつもこうして事態をこじらせる物言いをしてしまうのだった。
また家出かそれとも自分が追い出されるか、せっかくの週末なのになと、マッハであきらめに入っているフェイに、返ってきたのは意外な答えだった。
「……わかった」
「は?」
あまりに彼らしからぬ、すなおなこたえにフェイの声が思わず裏返る。
ぽかんとしているフェイの前で、バルトはすっくと立ちあがってにやりと笑う。
腕をかるく組んだ、奇妙なほど姿勢のいい立ち姿は、上背があるだけ妙にさまになるけれどこんなときはやっかい以外のなにものでもない。
もともと、人目をひくほど深いトパーズブルーが、こんなふうにあざやかな時はぜったいにろくなことがないのだ。
悪い予感を感じながらも、口には出さないけれど実はとても気に入っているその青から目が離せないでいると、
「この上でなら、なんっっでもゆうこときいてやる」
びし、とバルトがゆびさした先、鎮座ましましているのはスプリングがイカレたシングルベッド。
咄嗟には意味をつかめず、きょとん、となってしまったフェイだが、性悪な猫のように笑うその顔の意図するところに気づいて、思わず一歩飛びのいた。
どうだ?とばかりにあごをあげる表情は、婉然というよりは単に得意げで、色気もなにもあったものじゃないけれどそれはおたがいこどものこと。
「……っっお、おまっ……なな、な、なんちゅーことをッッ……」
なにかさまざまなことが脳裏を駆けめぐってしまったらしいフェイが、まっかにゆであがって口をぱくぱくさせていると、だめ押しのようにちゅ、となまあたたかい感触がほおをかすめて、純朴な18歳はあえなく陥落された。
ぷすぷすと煙をあげているフェイをふふん、と見おろし、バルトはベッドを指していたゆびの標的をぴ、と変えた。
「まだまだ修行が足りんな、ボーヤ」
かっかか、と勝利宣言も上機嫌に、ベッドの下からゲーム機をひっぱりだす。
そのうしろで、ゆらりと影が動いた。
気配にふりむく間もなく金のみつあみを思いっきりひっぱられて、バルトはうしろにのめりながら抗議する。
「いってぇなー!なにすんだ……」
よ、と言いかけて相方の尋常でない様子を察知したバルトは、とっさに距離を取ろうとしたが、みつあみをつかんだ手はびくともしない。
「あの……どうかしました?フェイさん」
つとめて可愛らしく首をかしげてみせたが、しゅーしゅーと黒いオーラが出ているフェイにはまるで効果がなかったようだ。
「……良い覚悟だ……」
「は、はい?」
常にない迫力に、バルトはおもわずたいらな胸をかばってみたりしてしまう。
「今すぐゆうこときかす!」
「わっコラおまえフェイ!きゃーだめエッチ!!レイプは犯罪よッ……って目がすわってルしー!」
いきおいよくベッドにころがされたバルトもそのバルトに馬乗りになったフェイも、さっきまでほんのすこしぴんく色だった空気なんてすっかりわすれていた。
容赦なく暴れるふたりぶんの体重に、スプリングが瀕死の悲鳴をあげる。
隣の住人が壁をまたすこし損傷させたが、しあわせにじゃれあっているふたりにはあまりにささやかな抗議だ。

そして結局、新作ゲームもビデオテープも陽の目を見ることはなかったのだった。

** end **