日記とプロファイル
アルカリエンジェル@ゼノギアス トップページ 小話。ここ 絵 キャラ説 リプレイ日記
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Short Story

Perfect World

エプロンの中で携帯がふるえているけど今は仕事中だし、相手はそんなこともわかっててかけてるんだから出ることもない。いっそのこと、携帯なんてロッカーに入れてしまえばいいのに、それをしないじぶんもたいがい往生際が悪いのだ。 バーコードリーダを山積みのビデオケースにあてがいながら、暇をもてあましてコードレスフォンをもてあそんでいる彼を思いだす。
もう自分は、見たことのない彼だって思いだせる。
終業時間まであと143分、 約37℃の体温までは3時間。

思いがけず、留守電がはいってる。
不機嫌をむきだしにした、でもすこし照れて早口で、なによりとてもさびしそうな、声がすこしのタイムラグでとどいている。
最終シフトの、だれもいないロッカールームで、くすんだ壁にもたれて、いまよりすこし過去の、声をきいている。
ばかばかしいくらいささいな、なんでもないことばとなんでもない声。
無防備に投げかけられる、彼と自分の日常の、ぽかりとあいた白い穴のような時間に。

そのひとの潔さや力づよさ、まっすぐな目線と歩いてきた道の痛み、思いがけない夜の体温のつめたさ、隠しきれないあたりまえの弱さや、抱いている夢の大きさと誇らしさを、しずかに思いだして、涙ぐんでしまうことがある。

そのとき世界はほんの一瞬、完全なのだと思う。

** end **